研究テーマ

放射性廃棄物処分システムに関する研究

(日本原子力研究開発機構、民間企業との共同研究)

(1)放射性廃棄物の地層処分とは?

原子力発電所で発生する高レベル放射性廃棄物は、地下環境で不溶性なガラス状に固化して地下深部の安定な岩盤中に処分されます。その際、超長期の安全を確保するため、ガラス固化した廃棄物をオーバーパックと呼ばれる炭素鋼製の容器に収納し、その周りを緩衝材と呼ばれる粘土で覆うことが考えられています。オーバーパックは数百年から千年の間、ガラス固化体をその内部に封じ込めます。一方、緩衝材は、地圧による機械的応力を緩和する他、地下水の動きを止めてオーバーパックの腐食を遅らせます。また放射性物質を吸着して、その動きを遅延させる機能を有します。このような処分システムの安全性を評価するためには、ガラス固化体、オーバーパック、緩衝材の超長期にわたる性能を正確に評価することが重要です。

(2)何を研究しているのか?

いままで我々人類は、数百年から数万年先の環境材料の健全性や性能を予測する必要性もなく、またその術も持っていませんでした。しかし、今後はその技術を早急に確立する必要があります。原子力エネルギーを安定的に利用するためには、放射性廃棄物を安全かつ確実に処分する必要があるからです。
私たちの研究室では、その未来予測のための新しい工学の研究を進めています。数百年から数万年先の環境材料の健全性や性能を予測するためには、その材料の特性を厳密に調べ、そこで起こる諸反応のメカニズムの理解を深めることが必要です。また、時間軸を遠い未来まで延ばすことの是非を慎重に検討する必要があります。そのためには、極微量の変化をとらえるための最先端の分析技術を駆使した研究や新しい発想に基づいた研究が不可欠です。
私たちの研究室が現在行っている放射性廃棄物処分に関連した研究課題は下記の通りです。

①高レベル放射性廃棄物処分のための高性能バリアシステムの研究
②界面動電法による化学反応の促進と移行バリア形成技術の開発
③コンクリート材料の放射能汚染メカニズムの解明
④非密封ラジオアイソトープ(RI)を用いた汚染物質移行メカニズムの解明

これらの研究を通じて放射性廃棄物処理・処分に用いられる環境材料の特性評価及びそこでの反応メカニズムを探求しています。

image002 高レベル放射性廃棄物の地層処分の概念図

image004 Ⅹ線CT法による粘土緩衝材の内部構造観察

福島第一原子力発電所事故後の環境修復のための研究~福島の復興をめざして

(日本原子力研究開発機構との共同研究課題)

(1)除染廃棄物と廃止措置

 福島の復興のために汚染地域の除染が進んでいますが、それに伴い大量の除染廃棄物が発生しています。除染廃棄物の中間貯蔵・最終処分のためには、廃棄物の特性評価が不可欠です。このため、セシウム(Cs-134、Cs-137)の土壌中での物理・化学・生物学的挙動のメカニズムを理解することが重要です。一方、福島第一原子力発電所の廃止措置等を適正かつ合理的に行うためには、作業員の被ばくの低減、発生する廃棄物の量、地域社会との協調など様々な観点から関連する技術と費用を検討する必要があります。

 

(2)研究活動

 セシウムは土壌中の粘土成分に非常に強く収着しますが、そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。さらに、自然界の土壌は、粘土を含む様々な無機鉱物、有機物の複合・混合体であり、微生物の働き、構成成分どうしの相互作用により時間を経るとその組成や構造が変化する非常に複雑な系です。私たちの研究室では実験とモデル計算の2つのアプローチから土壌中でのセシウムの挙動に関する研究を進めています。マクロで観察される事象をミクロレベルでの理論で説明することが目標です。一方、福島第一原子力発電所の廃止措置に関する研究では、同炉の状態が寿命を全うした原子炉施設とは大きく異なることもあり、技術及び費用の分析・評価のための基礎データの収集を行うとともに、その分析手法を検討しています。
 主な研究課題は下記の通りです。

①デコミッショニング(廃炉)エキスパートシステムの研究開発
②放射性セシウム汚染土壌に対する合理的環境修復

 なお、土壌中のセシウムの収脱着・移行挙動については仏ナント大学Subatechに、毎年インターン生を送っています。

image006 分子動力学計算による粘土鉱物エッジ部分へのCsイオンの収着挙動のシミュレーション

image007 共同研究を行っているSubatech/Ecole des Mines, Université de Nantes (フランス)

image010 福島県内での除染実習風景(2013年9月26日飯舘村)

オープン教材の作成・活用による実践的原子力バックエンド教育

 福島第一原子力発電所の事故によって環境中に放出された放射能による諸問題に対処するため、環境放射能に関する知識および技術を有する人材を早急に育成する必要があります。私たちの研究室では、平成26年度より文部科学省から原子力人材育成等推進事業費補助金を受け、小崎教授を事業代表者とした「オープン教材の作成・活用による実践的原子力バックエンド教育」事業を進めています。実験やフィールドワークを含む講義や国際的に活躍している海外の研究者を招聘してのセミナー、関連施設の見学会などを、他大学、研究機関、地方自治体、民間企業の協力を得て実施しています。

image011 講義風景 

image013 関連施設見学会

image015 福島県内での除染実習